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LO/ST CO/LO/RSの創作S/S+ラクガキブログ。 白騎士コンビを贔屓ぎみですが主人公最愛・オールキャラと言い切ります!
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手を伸ばして、頬を包んで。額に触れるだけの軽い口付けを落とす。

胸がドキドキして息をするだけでも苦しくてーー今、あなたがどんな顔をしているか知るのが怖い。
だから私は意味もなくぎゅっと瞼を閉じて。

「ありがとう…すごく勇気が出たよ。じゃあ、行ってくるね」

そう言って私のおでこにキスを落としたあなたの、部屋を出た足音が遠ざかっていく。

今のはただの元気が出るおまじない…だったはずなのに。

私、本当に本当にーーどうしちゃったんでしょう!





「リヴァル…リヴァル!」

いくら声をかけても、ずんずんとクラブハウスの廊下を進んでいく姿を小走りに追いかけて手首を掴んだ。

「…ぅわっ、聞こえてるってば!」

見るからに怯えた様子のリヴァルに僕は地味に傷ついた。まるでニーナと同じくらい僕を怖がってる。

「聞こえていたならどうして立ち止まってくれなかったんだ?お陰でルルーシュに見られたら一晩中説教されるリスクを侵してまで、僕は廊下を走ることになったんだが」

リヴァルは、今度は青くなった。

「…お前って本当に、よく正気でいられるよな。あのルルーシュからそんなくだらないことで理詰めの小言を言われたら、俺なら泣くって!」

「ならば望み通りに泣かせてやろうかリヴァル」

その時背後からいつもより1オクターブは低い僕の生活指導係兼保護者の声がした。

…リスクが高い危険は冒すべきじゃないな。

ナナリー、ごめん。
新しい本を読んであげる約束ーー今夜は守れそうにないよ。

「ルルーシュ!俺がいつ、説教してくれって頼んだよ!」

あえて振り向かない僕の肩に手を置きながらルルーシュはリヴァルに応える。

「今のお前たちの会話と行動には、俺から説教されたいとしかおもえない内容が大分あったが…まずはその指摘から始めた方がいいか?」

「うわー!わかりましたよ、わかりました!ルルーシュ様、私が全面的に悪かったです。だから、今回だけは見逃してください……俺、これからバイトがあるし…」

リヴァルがちらとこちらを見る。ようやく本題に入れるチャンスを僕は見逃さなかった。

「なぁ、リヴァル。僕のこと最近避けてないか?僕は君に…何かしてしまっただろうか?」

「しただろ!」

即答された。

しかしリヴァルに話しかける前からその可能性についてはさんざんシミュレートしていた。昨日一晩考えて、どうしても思い当たる節がないからこうして直接訊ねることにしたのだ。

「すまない、自分では見当がつかないので詫びようもないんだ。どうしたら許してもらえるか、教えてくれないか?」

正面に回り込んで真っ直ぐにリヴァルを見ると、少し涙目になっている。

「あのな、悪いんだけど……お前の顔見てると、どうしてもこの間の事故チューのこと思い出しちゃうわけ!だから、しばらくそっとしておいてくれないか…」

びっくりした。
男同士だから、あんなことただの笑い話にしてくれるとおもっていたのに。

リヴァルとのキス…たしかに僕にとっても初めての経験ではあったーーもっとも、記憶を失う前のことはわからないが。
それにしたって何かが変わるわけでも減るわけでもないのに、そんなにあからさまに僕を避けなくてもいいんじゃないだろうか。

女々しく潤んだリヴァルの瞳に、僕は冷めた気持ちになってきていた。あんなに悩んでいた僕がまるで馬鹿みたいじゃないか。

「馬鹿かお前は!」

僕の心の声を代弁するかのようにルルーシュが冷ややかに言った。

「ルルーシュ!お前な…お前なんかに俺の気持ちが」

「ああーーわからないな。俺のファーストキスは2歳の誕生日、相手はどこかの貴族のオバサンだ。その日だけでもオッサンに幼児から老婆まで…キスを交わした人数すら覚えていないからな。その後今に至るまでだって酷いものだぞ。こちらの意思などお構いなしだ…だからキスの思い出なんかにいちいちこだわっていたら、俺は正気じゃいられなかっただろうな」

ルルーシュは自虐的な笑みを浮かべそっと口元に手をやる。

びっくりした。
ルルーシュの記憶力のよさにも、初経験の壮絶さにも、その後流れるような動作で僕の肩を引いて口端に軽くキスを落としたことにもーー視界の隅に呆然としたリヴァルが見えた。

「こんなのは挨拶程度のことだ。親愛を示す手段のひとつに過ぎない。それなのにお前から激しい拒絶をされたことで、こいつがこの数日どれほど悩み胸を痛めていたのかわかるか…!」

その目には静かな怒りの感情があった。

ルルーシューー僕のために思い出しがたい過去までも明かして、リヴァルに真の同意を求めるなんて。
僕はその解りづらくて、でも真っ直ぐな優しさに胸が熱くなった。

「ルルーシュ…ありがとう」

僕もルルーシュの頬に軽くキスを返す。意外なことに、彼のようにスマートに決めることができた。

まったくルルーシュの言う通りだ。男だろうが女だろうが、大切な相手に親愛の情を示す方法に違いはないだろう。
触れるだけのキスは、その類のものだ。
たとえ唇のど真ん中だったとしても…多分。

「何だか俺、もうどうでもよくなってきた…」

リヴァルは気の抜けた声を出すとへらりと力なく笑った。

「その…今までごめんな。俺の小さなこだわりのせいでお前を悩ませたりして」

「…もういいんだ。今まで通りこれからも仲良くしてくれ」

「おぅ!」

これで一件落着ーーとはいかなかった。
ルルーシュが僕に完璧な微笑みを向ける。ただし、目はまったく笑っていなかった。

「ちなみにお前が廊下を走ったことに対する言い訳は一切認めないからな。それから2人に忠告しておくが、校内ではするなよ。無論女子には痴漢扱いされるから止めておけ。やっていいのはパーティーのような無礼講と、あとは身内だけだ」

こんなことがミレイさんに知れたらとんでもない企画へと発展してしまうに違いないし、彼女は女性だ。
個人的にルルーシュに逆らうことは極力避けたいので、僕は機会を半永久的に失うことになるだろう。

別に残念だとはおもわないが、先ほどの経験から僕はああいう行為に慣れているような気がしたので記憶の手がかりへの糸口にはなったかもしれない。

「だからお前の場合は俺やリヴァル、スザクとすればいいさ」

そう言って可笑しそうに笑うルルーシュに、僕は頬に熱が集まってくるのを感じる。

「べ、別に僕は……」

「わかっている。ただ、忘れないでほしいんだ。お前の記憶はまだ戻らなくても、帰る場所…居場所ならばもうここにあることを。お前の身元を引き受けたのは、アッシユフォード学園の生徒会なんだから」

「…うん」

するとリヴァルが僕とルルーシュに抱きついてきた。

「なぁなぁ俺もいるからさ、だからそんな顔すんなって!」

ーー一体僕は、どんな表情をしていたのだろうか。

可笑しいような恥ずかしいような感情を持て余したまま、しばらくの間僕たちはクラブハウスの廊下で押し合ったりしてふざけていた。
ルルーシュまでこんなことに付き合ってくれるなんて本当に珍しい。多分、彼なりに僕を元気付けてくれているのだろう。他人とは一線を引いた距離を保っているルルーシュが本当はひどく優しいのだということに、短い付き合いでも僕は気付いていた。

そしてあっという間にリヴァルのバイトの時間になってしまった。

「うわっ、本格的にヤバい…カンペキに遅刻だ!じゃあまた明日な!」

「ああ、また明日」

僕はルルーシュと一緒にリヴァルの背中を見送った。

さて…楽しい時間は終わりこれからは説教タイムだ。僕は覚悟を決めるべく大きく息を吸い込んだ。
だがルルーシュからは以前と同じように軽いデコピンで額をはじかれただけだった。

「今度からは気を付けろよ。ドタドタという足音でナナリーが驚いたらどうするんだ?」

「すまない…反省している」

ルルーシュにとって一番問題なのはそこだったとわかり、ほっとしたのと同時に心から詫びた。
そして、思い悩んでいた僕の背中を押すためにナナリーがしてくれたおまじないのことを急におもいだした。

記憶にはないことだったから、どうしたらいいか分からず僕も同じようにナナリーの額にキスを返したけれど。

何故今更、こんなに居心地の悪い気分になるのかを少し考えると、親愛という一言で括ってしまうことに対してわずかな引っかかりを覚えた。
それが小さくても特別な感情だということに気付いてしまった僕は、再び頬にたまりはじめた熱を隠すために俯いた。

ーーどうしよう、僕は。

「じゃあ、罰として今日はお前に食材の買い出しに行ってもらうとするかな」

その言葉にぶんぶんと頷いた僕は献立も聞かずにまた廊下を走ってしまい、今度こそこっぴどくルルーシュからのお説教を受けることになったのだった。

(終)




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