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LO/ST CO/LO/RSの創作S/S+ラクガキブログ。 白騎士コンビを贔屓ぎみですが主人公最愛・オールキャラと言い切ります!
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「遅い! どこで夜遊びしてたのよぅ〜!」

いきなり誰かに抱きつかれたルルーシュは、そのまま無理な姿勢で部屋へと引き込まれてバランスを崩した。
倒れずに済んだのは、横から伸びてきた腕が自分に抱きついた女性ごと支えてくれたからだ。
ルルーシュの視界を埋める細いうなじからは、ほのかなシャボンの香りと濃いシェリー酒の匂いが漂う。既に立っていることすら億劫なルルーシュにはその刺激は強すぎ、くらりとめまいがした。

「ルルーシュ、ミレイさんの言う通りだよ。こんなに遅くなるなら電話の一本ぐらい入れてほしかったな」

咎めるというよりは、心配していたという感情の滲んだ心地良い声に、素直な謝罪の言葉がルルーシュの口をついた。

「すまない。ちょっと…立て込んでいたんだ」
「そうか。じゃあ、とにかく座って」
「早くぅ!」

ライはそれ以上は尋ねることなく、ルルーシュからミレイを引き取り席を勧めてくれた。そのまま片腕でミレイを抱えると、カーディガンを羽織らせるべく奮闘をはじめる。ミレイが身じろぐ度にドレスのあちこちに入ったスリットから桜色に上気した肌が大胆にのぞいた。その色鮮やかな花柄のドレスに一層咲き誇るアネモネの花が、ルルーシュの目を惹きつける。
露出の激しい魔女との生活でそれなりに免疫の出来たルルーシュも、今日のミレイのパーティードレスは目のやり場に困る代物だった。何しろ面積と縫い代が極端に少ないのだ。
ライの頬もほんのりと赤く染まっている。感情が表に出にくい男だが、あれは酒のせいではないだろう。

その会長が持ち込んだのか、部屋の中央には壁に追いやられたダイニングセットの代わりに毛布のかかった低い箱机が鎮座している。
たしか…そうコタツという日本の暖房器具だ。
卓上のコンロからは良い匂いがただよい、ミカンの入ったカゴのとなりには色とりどりのお菓子の箱が山積みになっている。
その周りに、ボンボンチョコレートの包み紙と空き箱がいくつか転がっていた。ミレイの酔った原因に眉根を寄せたルルーシュだったが、仮に自分がこの場にいたとしてもミレイを止めることはできなかったという結論にたどり着き、それ以上考えることを止めた。
とりあえず嘘をつかずに済んだことにほっとしたが、まだ肝心な二人は顔さえ合わせていない。

ナナリ−はコタツへ足を入れ一心にミカンの皮を剥いていた。
かなり怒っているのだろう、ルルーシュには目もくれようとしない。自業自得なのだとわかっていても、疲れ切った心と体にその仕打ちは何よりも堪えた。

一体、どうしたら許してもらえるだろう。気持ちばかりが焦り何一つ言葉にできない。
霞がかかったような思考の中で、ルルーシュはライが今度は器用にクッションを使ってミレイを支えコタツへ座らせる様子をぼんやりと眺めた。コタツに落ち着いた途端ライに寄りかかってウトウトし始めたミレイは、まるでテレビドラマによく出てくる酔っ払って帰ってきた父親のようだ。
若干の呆れと可笑しな微笑ましさに、ルルーシュは思わず苦笑をもらした。

その時突然ナナリーに呼ばれた。

「お兄様、外は寒かったでしょう。早くこちらで足を温めてください」

慌ててルルーシュが顔を向けると、ナナリーはコタツの掛け布を持ち上げて待ってくれていた。それに吸い寄せられるようにして、ルルーシュはストンとナナリ−の隣に腰を降ろした。

「ナナリ−、すまない。今夜は一緒に食事すると約束していたのに…その、実は料理もまだ途中で」
「もう、お兄様! 一番先に言う言葉があるでしょう?」

怒っているというよりは呆れた様子のナナリーにルルーシュは面喰らった。
きっと拗ねた声で叱られるとおもっていたのに、すっかり大人になったナナリ−の成長が嬉しくもありさみしくもある。
どう答えていいかわからずただ妹の顔をまじまじと見つめ返したルルーシュに、ナナリーは剥き終わったばかりのミカンを皮で作った入れ物に乗せて差し出した。

「お兄様、新年おめでとうございます。これは私からの『お年玉』です」
「あ…ありがとうナナリ−。新年、おめでとう」
「おめでとう」
「おめでと〜ぅ!」
一通りの挨拶が終わり、ルルーシュがそろそろと足を伸ばすと爪先にふにゃりとした温かいものが触れた。

「ほわっ!」
「あっ、お兄様が当たりです!」

ナナリ−の嬉しそうな声に掛け布を持ち上げると、アーサーと目が合った。
にゃあ、とまるで挨拶のように鳴いたあと黒猫は頭をルルーシュの足の甲に載せて丸くなる。わずかな重みはほんのりと温かい。

「咲世子さん曰わく、冬の家族団らんはコタツにミカンが王道だそうだ」
「あと、猫もマストアイテムなんです!」

ライとナナリーの息の合った説明に軽い嫉妬を覚えて、ようやく調子を取り戻したルルーシュは一番の疑問を口にした。

「…お前がここにいるのはまだわかるんだが、どうして会長までいるんだ? いつもならニューイヤーはブリタニア本国の生家に帰るのに…それに咲世子はどうした?」

自分を棚に上げて詰問したルルーシュに気を悪くした様子もなく、ライは穏やかな笑みを浮かべて答えた。

「昨日の晩、ルルーシュが大慌てで出かけていくのが窓から見えたんだ。何だか胸騒ぎがして、ナナリーの様子を見に行こうとしたら、ちょうどミレイさんが来てくれた。だからここで一緒に君の帰りを待たせてもらうことにしたんだ。咲世子さんはついさっきアッシュフォードの屋敷の様子を見に戻ったよ」

するとミレイがトロンとした瞳をルルーシュへと向けてきた。

「だって、ライとナナちゃんにさみしいニューイヤーを迎えさせるなんて、できないじゃない。最近ルルちゃんはあてにならないから…おじい様にお願いして、私だけ日本に残ったのよ」

ミレイのおもいがけない言葉にルルーシュは目を見開いた。
ナナリーには咲世子が付いているし、少なくともライはさびしがるような年齢ではない。
ここにわざわざコタツや山盛りの菓子を持ち込んでまで、俺を一緒に待っていた理由がわからない。
ライは再び頬を染める。

「その…君には迷惑かもしれないけれど。記憶のない僕にとって、いつもそばにいてくれるルルーシュとナナリー、咲世子さんは本当に特別な人なんだ。だから僕はここで、君と一緒に新しい年を迎えたかった。みんなとルルーシュを待っていたかった。それにミレイさんは最初からコタツを用意してくれていて」
「もちろん! 私はライの、そしてナナちゃんとルルーシュの保護者ですから!」

ミレイは勢いよく両手を挙げてライに抱きつくと、そのまま後ろに倒れ込んだ。ライの声にならない悲鳴が漏れて、二人の姿はドサリという音と共にコタツの向こう側へと消えた。
ナナリーはその音に驚くこともなくクスクスと笑う。

「私…こんなに楽しいニューイヤーの晩は初めてです。お兄様を待っている間にゲームをしたり、おしゃべりをたくさんして…ずっとワクワクして、とても楽しくて。でもお兄様が帰ってきてくれたので、今が一番楽しいです!」

ニューイヤーを祝う習慣は、ブリタニアにはない。だから日本に来る前も年越しにこんな風に騒いだことはなかった。
時には母上がいない年もあった。その年はきょうだい2人で早々とベッドに潜り込んで、気が付いたら年が変わっていた…ルルーシュのニューイヤーの記憶といえばそのくらいだった。

本格的に眠ってしまったミレイをようやく寝かしつけたライは、起き上がるとコンロにかかっていたスープをルルーシュによそってくれた。

「咲世子さん特製の豚汁だ、体が温まるから飲むといい。咲世子さんは明日の朝に戻ってくることになっているから、そしたらみんなでおせち料理を食べよう」

峠を越した空腹感に胃が痛んだが、立ち上る湯気と香りがルルーシュの鼻腔を優しく撫でた。
ルルーシュの欲しかったものが、今目の前にある。


手に入れることに必死で奪うことしか考えられなかった。
いつの間にか、ギアスでしか人の心を思い通りにできないジレンマに苦しんでいた。

だから気が付かなかった。
ただ何の掛け値もなく、自分たちの存在を望んでくれる人がそばにいたことも、向けられていたまっすぐな愛情もーー今この瞬間まで理解してはいなかったのだ。

「お兄様?」

兄の感情の変化に敏い妹は心配そうな声を出す。
その声にルルーシュは冷えた指先でそっとナナリーの手に触れた。

「きゃっ、冷たい!」
「…ごめんよ、ナナリー。まだ体中がかじかんでいて…うまく、しゃべれそうにないんだ」

震える声をごまかしたくてそう言ったルルーシュの手を、ナナリーはきゅっと握り返した。

「…じゃあお兄様、早く温まって下さいね」

目の前のライは、見ているこちらが照れるほどの幸福そうな笑みを浮かべた。

「さぁ、冷めないうちにどうぞ」

ルルーシュは空いた方の手でマグカップを受け取った。指先に広がる温かさがもたらす痺れすら愛おしい。

己の選んだ道に後悔はなかった。
ブリタニアという世界を壊し、ナナリーが穏やかに暮らせる新しい世界を作るためならば、この先に待つ結末がどんなに惨めで残酷な終わりでも構わないとおもう。
そしてこれからも勝利を手にするために他人を、最後には自分自身もチェスの駒のように使い捨てるのだろうと確信していた。

それでも、もう考えずにはいられない。
明日も、その次の日もずっとずっとーー明日という1日を積み重ねていけば、またここで穏やかに新しい年を迎えられるのかもしれないと。
そんな馬鹿げたゼロに等しい可能性に、僅かな望みすら見いだそうとする自分の愚かさにルルーシュは唇を噛んだ。

俺には願うことすら許されはしない。だからこの願いは記憶の中に閉じ込めてしまおう。

生欠伸で涙をごまかしながら、ルルーシュはそっと瞳を閉じた。

(終)
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