LO/ST CO/LO/RSの創作S/S+ラクガキブログ。
白騎士コンビを贔屓ぎみですが主人公最愛・オールキャラと言い切ります!
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『傷痕〜エピローグ』
ショッピングモールでの買い出しも無事に終わり、その帰り道。
近道にと通り抜けている公園には、冬の足音に合わせて早まった日没のせいで既に人の姿は殆どなかった。
目覚めてから初めて迎えた秋の夕暮れの中を早足で歩いていく。
時代も国も違うのに、カサカサと足下で踏みしめた落葉の立てる音はどこか懐かしいものだった。
「あのさ……」
「何?スザク」
中途半端に途切れた言葉に振り向けば、スザクは開きかけた口を数回ぱくぱくさせて結局は閉じた。
僕は両手に下げたドラッグストアの袋を左手にまとめて持ち換えると、身体ごとスザクに向き直る。
そして何の前触れもなく、ぴっとスザクのおでこに人差し指を押し当てた。
「枢木少佐、軍人らしく言いたいことはハッキリと最後まで言いたまえ!」
大きな翠の瞳が真ん丸く見開かれる。ちょっと寄り目になったその表情はかなり子どもっぽい。
僕は思わず吹き出した。
スザクは途端に頬を染めると、少し不機嫌な声で答えた。
「人に向かって指を差すのは失礼だよ。…それに笑いすぎだよ!」
前屈ぎみに目尻に涙が溜まるほど口を開けて笑ってしまった僕は「ごめん」と謝ると、もう一度スザクに訊いた。
「で…今言いかけたことって何?」
スザクはまだ少し赤い顔のままで僕のことをちらりと見た。
「……君は、一国の王だった。
でも今は軍人で一兵卒としてブリタニアに仕えている。
こんな日用品の買い出しまでさせられて……その、嫌気はささないのかなって」
今度は僕が目を丸くする番だった。
「何で?」
スザクはバツが悪そうな表情で僕から視線を外すと、手にした袋をブラブラと揺らして下を向いた。
ますます子どもみたいだ。
「記憶が戻った以上、本当はもう無理に軍人を続ける必要が君にはないから。
だから…いつか君が、今の状況に耐えられなくなる時が来るんじゃないかって。
さっきの傷痕だって僕が軍に君を誘ったから」
そこまで言うと言葉を切る。
……不安……なんだ。
そう呟いた声は、歩いていたなら足元の音に紛れてしまうほど小さな声だった。
「分かってる。変わらないものなんてどこにもない。僕自身だって、今まで生きてきてずいぶん変わったよ。立場も役割も周りの環境もね。
この日本という国だって、まだ一部だけど『エリア11』という支配から解放されようとしている。
君の記憶が戻って嬉しかったのに、それを僕は望んでいたはずなのに−−−おかしいよね、いつか僕の目の前から君まで居なくなる気がして 」
ユーフェミア皇女殿下の騎士であるスザクは特区にいることが殆どで、まだクラブハウスで暮らしている僕とは違い、今では学園に姿を見せることはない。
そして特区成立とほぼ同時に、急な事情でルルーシュも学園を去っていった。
最愛の妹ナナリーを、アッシュフォード学園の中等部に残して。
僕が退院したときには既に彼の部屋は引き払われた後で、書き置きの一つもなかったのだけど。
ルルーシュが貸してくれていた本に挟まっていたしおり代わりの折り鶴を見つけたとき、彼が戻るまでは僕がナナリーを守ろうと心に決めた。
僕が、僕の居場所を作ってくれた大切な友人にできること。 そして、僕にとってもナナリーは守りたい大切な人だから。
だが幼なじみのスザクにさえ、ルルーシュからは未だ何の連絡もないという。
携帯はいつも圏外、それでもナナリーには定期的に電話がかかってきているようだが……同じ棟で暮らす僕でも、まだ彼と話す機会は持てていなかった。
スザクが守りたかったものと取り戻したかったもの。
しかしまるで対価のように、彼の中にあった大切な温かいものが彼の手からはこぼれ落ちていく。
スザクがスザクで居られる場所は、もう本当に限られているのだ。
完全に俯き顔を上げようとしないスザクの頭に、僕はいささか乱暴に指先を入れると柔らかな栗毛をくしゃくしゃにした。
ぴく、としたがスザクはそれでもまだそのままの姿勢を崩さない。
「スザク、僕は軍を辞めるつもりはない。
今の僕は、ロイドさんがくれた名前とIDで生きている只のブリタニア軍人だ。
それに今日買い出しに君を誘ったのは僕の方だよ?」
こわごわと見上げてくるスザク。
まったく君はユーフェミア殿下の騎士なのに、こんな往来でそんな顔をしてたらダメじゃないか。
ここが人気のない夕闇に包まれた公園で本当によかった。
そして僕は一つの決断をする。
「スザク。来年になったら僕も特区に住むよ」
「えっ…!!」
僕の言葉に驚いたスザクは、がばっと起き上がると僕の顔をじっと見つめた。
「僕はアッシュフォード学園の学生じゃないからね。
ミレイさんが卒業したらクラブハウスを出ようとおもっていたんだ」
「でもナナリーは…」
「もちろんナナリーも一緒に行くよ。ユーフェミア様からもずっと、一緒に住もうってナナリーは誘われているんだ。
あと問題は、特区の治安だけ」
だから、僕たちで守ればいいだろう?
そう言って微笑めば、ようやくスザクは「そうだね」と言って小さく笑った。
特派に遠距離通勤することは現実的に可能なのか、あと半年足らずでナナリーが安心して暮らせるほど特区の治安は回復するのか、
そして、僕の保護者ミレイさんを説得することは本当にできるのだろうか?
問題は山積みだけど———スザクのためだから仕方ないか。
だって僕は、君をほうっておけないんだから。
それは二人が「白の騎士」と呼ばれるようになる、ほんの少しだけ前のこと。
(終)
<誰よりも大切な君のために僕はこの世界で生きてゆく>
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