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主人公BDのSSは、実は発売日に合わせて書いていたわけではないのですが、今日UPできてよかったです。
特派ルートスザクED後、スザクは主人公好きすぎるの妄想炸裂、でもみんなが主人公大好き設定です。
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僕には誕生日がない。
「私」の記憶が戻った今も、既にこの世界で使われなくなった暦の日付はないものと同じだ。
調べれば簡単に皇暦で対応した日時がわかるのだが、あいにく僕にはそんな暇も気もさらさらなかった。
だから−−−そのプレゼントは本当にサプライズだったんだ。
『さくら』
午前7時45分、クラブハウスの自室で出かける支度をしていたところに威勢良く飛び込んできたのは、今では珍しい私服姿のスザクだった。
息を弾ませながら、薄紫色の縁なしサングラスを外して頭に載せる。
いわゆるビーチで監視員や軟派な軍人がかけていそうな、少し細身のリゾート感あふれるデザインのそれは、マッキントッシュのコートにパステルカラーのマフラーという出で立ちから明らかに浮き上がっており強烈な違和感があった。
もしもお忍びのつもりであれをかけているのだとしたら、かえって人目を引いているということを彼に教えるべきか否か−−−多少なりともスザクの気を害するのは避けられない以上、どちらを選べばよりスザクを傷つけないだろうか?
つまりそれが今僕によってもたらされるか、そう遠くない未来に他の誰かに指摘あるいは嘲笑されるかの違いだ。
そんなことを考えたら、おもわずネクタイを締めようとしていた手が止まった。
一瞬の間に色々なことを考えてしまうのは僕の悪い癖で、ナナリーに言わせるとこういうところが誰かさんに似ているらしい。
テーブルの上ではポットがお湯が沸いたことを知らせるパチンという音を立てる。
まるでそれが合図だったかのように、スザクは一気にしゃべった。
「…今日は、僕も休みを取ったんだ!えっと、お昼ごはんはナナリーと咲世子さんが用意してくれているから…午後から特区の神社にお参りして、そのまま少し足を延ばしてイズの温泉に行こうよ!きっと今は山桜が綺麗だよ…ピンク色に覆われた山肌は、ずっと見ていると時の経つのを忘れてしまうほど幻想的なんだ。それで夕方までは山をぶらぶらしようよ。ディナーはユフィがどうしても君を政庁に招待するんだって言ってきかなくて、だから7時には特区に戻らないとね。ユフィ、今日は朝から真剣にデスクワークに励んでいるんだよ。午後はディナーの準備をするんだって」
「…スザク、一つ聞きたいんだが」
そのきょとんとした表情に、僕は一瞬躊躇した。しかし気を取り直して訊ねる。
「『僕も休みを取った』と言っていたが、あいにく僕には休暇を申請した覚えはないんだが…」
しかもそのハードなスケジュールは一体何というつぶやきは、どうにか口の中でのみ込んだ。
まさか移動にランスロットを使うつもりじゃないだろうな−−−いや、それはないとおもいたい。
だがスザクとユーフェミア様の行動は、大抵僕の想定圏外にあるのだ。
途端にスザクは満面の笑顔を浮かべる。
「ははっ、君は知らなかったんだね!特派ではロイドさんの方針で、急務がない限り誕生日は自動的に休暇扱いになるんだよ」
誕生日…?
僕ははっとした。
この世界でブリタニア軍人として生きるためにロイドさんが僕に用意してくれた名前とID−−−そして、それを受け取ったあの日が今の僕の誕生日なのだと。
一年前の今日が、まさにその日だった。
「お誕生日おめでとう。僕からのプレゼントは、今日君に本物の桜を…そして本来の日本を見せることだよ。何だか言葉にすると恥ずかしいけど」
ほんのり頬を染めて微笑んだスザクは、まるで子どもみたいにきらきらと目を輝かせている。
あっという間に、自分でも判るくらい顔に血が上ってくるのがわかった。
時を越えて生きている僕には、本当の年齢なんてもうわからないけど。
スザクが一生懸命考えて、僕のために準備してくれたことがとても嬉しかった。
誕生日なんてとうに自分の中から消えたものなのに、急に今日という日の一分一秒がかけがえのない時間におもえてきて。
そしてそれを意識した瞬間に、また僕の目に映る世界に色彩が増えたような気がした。
そう、例えるならこんな色だ。
「ねえ…どうかしたの?」
何も言わない僕に、少しだけ不安そうな表情を浮かべたスザクの髪に僕は手を伸ばした。
細められていたその目が大きく見開かれる。
僕が柔らかな髪からそっと摘んだのは、淡い紅色をした美しい一枚の花びら。
千切れてしまわないように指先だけで慎重に持ち、スザクの目の前にかざした。
「これは桜の花びらだろう?ありがとう。スザクは僕に桜を見せに来てくれたんだな」
「えっ、あっ…!昨日から特区も桜が咲き始めたんだ、きっとそれで付いて…!」
ふわふわした茶髪を真っ赤になって掻くスザクは頭上のサングラスの存在を忘れてしまったのか、ツルを引っ掛けると勢いよくふっ飛ばしてしまった。
「あっ!」
小さな叫びと同時に、カシャンと軽い音を立てて離れた所に落ちたサングラスはそのまま床を滑っていき、エメラルドグリーンのハイヒールの先に当たることでようやく止まった。
そのまま視線を持ち上げると、そこには僕の保護者がものすごく迫力のある笑みを浮かべて立っていた。
「「ミレイさん!」」
「まっーたく、朝っぱらから何やってるのあなたたちは!声かけるタイミングが全然なくて、どうしようかとおもったわ」
そう言ってウインクしながらミレイさんはスザクのサングラスをヒョイと拾い上げた。
「当たり所が悪かったみたいね、レンズにヒビが入ってる。あとスザクくん、たしかこれ前に海の家で買ったものよね?はっきり言って夏物よ」
ああ、ものすごくシンプルに最小限のダメージで事を収めてしまうミレイさんはやっぱりすごい。
僕は感動して言葉も出ないが、スザクはスザクでとなりで真っ赤な顔をしたままぱくぱくと口をさせている。
しかしミレイさんはこちらの様子を気にすることなくスタスタとやって来ると、はいと壊れてしまったそれをスザクの手に載せた。
くるりと僕に向き直り、今度はにっこりと微笑む。
「さっき私の婚約者から、今日はあなたの誕生日だって聞いて急いで来たのよ。ナナちゃんとのランチまではフリーなんでしょう?久しぶりに買い物にでも行きましょう!私もあなたに何かプレゼントしたいし。でももっと早くにわかっていたら、たとえ本当の誕生日でなくても生徒会のメンバーを集めてパーッとイベントを企画したのにねぇ…」
ミレイさんの残念そうな声をきいた僕の脳裏に、今はここに居ない大切な友人−−−ルルーシュ・ランペルージの姿がよぎった。
スザクも同じことを考えたようで、急に赤面していた表情に影が差す。
そして、言葉を発したミレイさん本人にも。
だが誰もそのことには触れなかった。
今の僕らには待つことしかできない。
そして、いつ彼が帰ってきてもいいように「お帰りなさい」の用意を万全にしておくだけだ。
その空気を変えるかのように、ミレイさんがことさら明るく言った。
「さあ、ちゃっちゃと朝ご飯を食べて出発するわよ〜!ほら、その軍服は早く着替えてきて!スザクくんは3人分のトーストの準備!私は紅茶を用意するわ」
ミレイさんのハイテンションにスザクと僕は顔を見合わせて笑うと、それぞれの役割に散った。
寝室のドアを開けると、正面にある窓からはアッシュフォード学園の校舎まで続く桜並木が見えた。
それはまだ黒く固い蕾で、僕の目にはとても咲く気配すらないように映る。
だがあと数日、あるいは数週間後には確実にピンク色の花を咲かせるであろうその木々に僕はおもいを馳せた。
今年は間に合わなくても、いつかナナリーの目が見えるようになって、ルルーシュも戻ってきて、みんなでこの桜並木を見上げられますように−−−
僕は恋い焦がれた花に、大切なひとたちの笑顔と、共にある未来が開かれますようにと望みをかける。
この世界に目覚め生きることを決めた僕は、ある意味では王であった頃よりも欲張りになったようだ。
スザクの髪に付いていた花びらはもうしんなりとしてしまっていたけれど、僕は机の上に置いてあった本の間に紙でくるんだ花びらをそっと挟んだ。
そして同時にミレイさんとスザクの声に呼ばれると、僕は大慌てでクローゼットを開いたのだった。
キッチンへ戻ると、甘いインスタントレモンティーと香ばしいトーストの匂いが立ち込めていておもわずお腹が鳴った。
「そうだ、スザクくんも一緒に買い物に行くわよね?そのサングラスは修理に出して、とりあえずは新しいのを買ったらどうかしら」
「はい、そうします。一応僕…人目につくとたまに襲われたりするんで、周りに迷惑をかけちゃうし」
ああやっぱり……変装だったんだ。
僕は改めてミレイさんの存在に感謝した。
彼女なら今のスザクにふさわしいサングラスも選んでくれるだろう。
しかし僕はスザクに聞いておきたいことがある。
変装もしていたくらいだから大丈夫だとはおもうが、念のためだ。
「スザク、ここには今日は『公共交通機関』で来たんだよな?つまりその……ランスロット……じゃなくて」
マグカップに口を付けたままこくこくと頷くスザクに僕は安堵していた。
−−−満面の笑みを浮かべた彼が口を開くまでは。
「うん、帰りのことを考えてね。特区から帰るのはクラブの方が都合いいだろう?ロイドさんがフロートユニットも付けておいてくれたから準備は万端だよ!」
目の前が一瞬暗くなったように感じた僕に、予想もしなかったミレイさんの言葉が続く。
「あ〜、忘れてたわ。ロイドさんからこれを預かってきたの。あなたへのバースデープレゼント、ただし今日一日限定ですって」
ミレイさんが取り出したのは、見間違えようもないクラブの起動キー。
青いリボンが丁寧に蝶々結びに結わかれたそれを見て、 僕は一刻も早くルルーシュに帰ってきてほしいと別の意味でもおもった。
僕にはとても彼らを止められない。
ねえスザク、コーネリア様やギルフォード卿に叱責されるのは…ブリタニア軍属の僕なんだよ?
でもそんな気持ちとはうらはらに、僕の頬には熱が集まってくるばかりで。
「本当におめでとう。これからもよろしくね」
「ハッピーバースデー!さあ、早く食べて出かけましょうか!」
「うん……ありがとう」
そう答えるだけで精一杯だった。
ああもう色々考えるのは止めて、素直に「僕」が生まれた今日という日に感謝しよう。
そして2人に、そして僕の大切なひとたちに。
どうかたくさんの幸せが降り注ぎますように−−−
そう願った僕の目に、今度は一瞬薄紅色の花びらが舞う幻想が見えたような気がした。
(終)